くらす・はたらく

10年、20年後を担う子供たちのために。「海と山の町」として逗子から創る未来 ジュニアトレイルラン代表 宮地藤雄さん

2022.03.19(土) 働く人  暮らす人  支える人  

 


山の中を走り回るスポーツ、トレイルランニング。

元マウンテンランニング日本代表の宮地さんは、7年前に逗子で『ジュニアトレイルラン大会』を初開催。この場所で子供への普及活動を始めました。

 

そして現在、これまでの経験を通して見えてきた問題を解決すべく、仲間と共に新たな挑戦をされています。

 

トレイルランニングから市民活動へ進んだきっかけ、宮地さんが逗子で感じる問題意識、これから創っていきたい未来など。

 

ご自身が持っている、想いやビジョンをお話いただきました。

 

 

運動経験ゼロからマウンテンランニング日本代表へ

 

── 宮地さんは、2013年〜2019年にマウンテンランニング日本代表として活躍されていますが、昔から運動が好きなんですか?

 

いや、まったく。実は運動音痴なんです。小中学校の体育は謎の頭痛や腹痛だったし。二重跳びは、いまだにあやしい。逆上がりは100%できないです。

 

── え、意外すぎます!走り始めたきっかけは、何だったんですか?

 

大学4年生の時に教育実習で母校に行き、部活を見ることになって。せっかくなので、運動部に関わってみたい。でも球技が苦手なので、結局、陸上部を選びました。

 

大学卒業後も、仕事の合間に陸上部で何年か活動してました。新入生を連れてスポーツ用品店に行った時、山のレースのチラシが目に入って。

 

「なんだこれ、走ってみたい!」って、直感的に思ったんです。

 

── それまで山に行ったことはあったんですか?

 

学校行事で登ったぐらいですね。別にそこまで興味があった訳ではなく、ただ直感的に平らな所より、この山に行きたいと思いました。

 

それでエントリーして、走り始めたのが2006年。もうすぐ、山を走り始めて丸16年です。

 

── 挑戦してみてどうでしたか?

 

最初は散々で大変でした。そのときは御嶽山(おんたけさん)という山での大会で「お鉢巡り」といって、山頂をぐるっと回るものだったんですね。

 

そのときに見た360度のパノラマがすごくて。なんかこう、その世界に魅せられたというか。もっといろんな山に行きたいと思って。そこからどんどん走るようになりました。

 

2008年ぐらいからは、本格的に海外のレースばっかり出てましたね。

 

── どんどんはまっていったんですね。やっていく中での楽しみって何なのでしょう。

 

知らない場所を走る楽しみ。どんな世界に出会うかわからない。

 

あとは、2006年だとトレイルランニングって、まだそこまで日本では流行ってなかった時期なので、頑張ると結構成績がついてきて。もっと勝負したいと思うようになりました。

 

※「マウンテンランニング」とは

マウンテンランニングは、近年注目を集める「トレイルランニング」と同じく山を走る競技種目。トレイルランニングにおける主要素は「舗装されてない自然の路面」のため、「路面」と「距離」により規定されている。一方、マウンテンランニングにおける主要素は「標高」(高低差)と「距離」。このスポーツは「路面」と「距離」と「地形」により規定されている。

マウンテンランニング(山岳マラソン)は大幅な標高差(変化)があれば、舗装された路上でも公式レースが行われる。(日本トレイルランニング協会より要約)

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

 

トレイルランニングを通して子供たちに伝えたいこと

 

── 数年前から子供向けのトレイルランニング活動をされてますが、これはどんなきっかけで始めたんですか?

 

もともと、子供へのトレイルランニングの普及活動をやりたいっていうのが、自分の中にずっとありました。

 

僕は運動音痴だったけど、学校も親も温かく見守ってくれたから、のびのびと育つことができた。子供たちにも、そういう環境があればいいなと思って。

 

だから、トレイルランニングの大会やイベントを作りました。

 

レースにするけど、最後の子まで全員待つし、「完走した全員が素晴らしいんだよ」っていう、僕が大事にしてもらったことをみんなに伝えていくことを心がけています。

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

── 素敵な活動です。子供たちは運動を通して学んでいくんですね。

 

子供時代にトレイルランニングを経験をしておくと、敏捷性だったり、反射神経、スタミナがつく。あとは自然に触れることや五感を使う経験もする。

 

それが将来、他のスポーツをするにしても役に立ちます。

 

彼らが山登りするときに、僕は「必ず挨拶するんだよ」とか、「自分でどっちに行くか考えなさい」とか、あとは「困ってる人がいたら声をかけるんだよ」と言ってます。

 

Jr. TRAIL RUN(以下、ジュニアトレイルラン)では、この3つを三本柱にしてるんですね。

 

「トレイルランニングを通じて、将来あなたたちは強く優しい魅力的な大人になるんだよ」っていうことを常々言っていて。

 

だから早いか遅いかとか、そんなものはどうでもよくて。楽しんで、周りの人や自然を大事にしなさいっていうのが、僕からのメッセージなんです。

 

そうすると、マナーに対して高い意識を持った子たちが育つので、10年後、20年後もこのあたりのフィールドはきっと安泰なんです。

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

── なるほど。それがバトンになって繋がっていく。そういうことですよね。

 

そうですね。最近はスズメバチの罠設置作業をしたり、逗子の道迷い防止用トレイルMAP作りしたり。町をより良くするための活動で忙しいんですけど、そのなかでもジュニアトレイルラン部の活動は普通に続けてます。

 

そこで走ることが僕のリフレッシュでもあるから。

 

「子供たちと話すのはやっぱ楽しいな、よし頑張ろう」という風に思えるんです。

 

 

逗子での活動を通して芽生えた「問題意識」

 

── すごい。動き回ってますね。「町をより良くしよう」と思ったのは、ジュニアトレイルランでの活動も関係があるのですか?

 

そうですね。逗子で「ジュニアトレイルラン」という子供の大会を始めたのは、今から7年前。妻の実家が逗子で、9年前に引っ越してきたんです。

 

逗子に根ざして活動しようと思った時に、隣の鎌倉でマナー条例ができるという話を耳にして。トレイルランニングは危ないから禁止しようみたいな動きがありました。

 

そうなったときに、逗子にも波及すると思って。そこから、一気に活動のギアを上げました。

 

市民活動団体で山道の整備をする“ZUSHI TRAIL WORKS”を作ったり、ジュニアトレイルランだけではなく、教育の部分に力を入れるようになったり。

 

高校でも、トレイルランニングの授業をやらせてもらえるようになりました。

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

でも、市民活動だけだと、やっぱり突破できない壁というのが色々あって。

 

── そうなんですね。壁とはどんなものですか?

 

鎌倉は人が多いけれど、逗子はそんなに人がいない。だから同じルールを作るのはおかしな話だと思ったんです。

 

それよりは、きちんと山を活用して保全して、防災だったり地域のコミュニティだったり、利活用して行くほうが安全です。

 

結局、間伐をしていないから土砂崩れが起きやすくなる。

 

今まで手をつけてこなかった、山の問題というのがたくさんあるんです。そこに目を向けないと問題は解決しない。

 

ただ、地域活動や行政活動を見ていると、スポーツや山など、そっちの視点に立って活動を主体的にやってる人がいない。待っている間に、土砂崩れがどんどんおこる。

 

残念ながら良い意味で変化を感じられなかったから、じゃあ、自分で声を上げていこうって。

 

「こうだったらいいのにな」を仲間と実践したい

 

── そうですよね。自然は待ってくれませんよね。わたしはよく海に入るので、海の環境がどんどん変化していることを実感してます。磯焼けで海藻が取れなくなってきているし。

 

そうなんです。しょっちゅう海や山に入っていると、肌感覚で感じることってあると思うんです。

 

だから、エビデンスも大事だけど、その前に定期的に海や山に入る人を増やしたいんです。

 

僕の持っている危機意識を、みんなと一緒に考えることができたらと思ってます。

 

教育だったりイベントを通じて、みんなに一緒に考えてもらって、実践をしていきたいです。

 

僕は「町としての将来設計」みたいなものをもっと考えていった方がいいと、日々山に入っていて感じます。

 

だから、逗子の町をより良くするために声を上げるとき、僕は1,000人の応援団を集めることを目指してるんです。

 

1,000人の応援団は、僕を応援するためだけの集まりじゃなくて、コメントや「こうだったらいいのにな」っていうのを僕に言ったり、一緒にそれを考える1,000人を集めたいと思っています。

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

逗子の町をより良くするために

 

── なるほど。応援団というより「1,000人の仲間」という感じですね。宮地さんが町を良くする上で1番気になっていることは何ですか?

 

今だったら、子育て目線で物事を話します。自分の子が1歳と3歳なのもあるんですけど。

 

でも、それだけじゃなくて、トレイルラン部とか、いろんな形で一緒に走る子供たちがいっぱいいるんですね。

 

だからこの子たちに、ちょっとでもいい状態で残してあげるっていうのが大人の責任だと僕は思っているので。

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

 

そして例えば、子育ての保育問題を解決すると、他のこともよくなるんです。

 

ベビーカーが押しにくいから歩道をデコボコを直しましょう。そうすると、ご高齢の方のキャリーカーも歩きやすくなる。

 

道幅が狭いから広くしよう。そうすれば、傘をさしてすれ違えるようになる。

 

子育ての提案が実は市民全体の生活への恩恵になってくるんです。

 

僕は1つの例えとして、子育てを言っているけれども、結局、特定の誰かを助けるんじゃなくて、みんなが思いやりを持って暮らしていけば、エスカレーターの「どうぞ」だったり「荷物持ちましょうか」じゃないけど、そういう町になると思っています。

 

 

コツコツと誰よりも動く

 

── なるほど。繋がっているんですね。今の活動をする上で心がけていることはありますか?

 

僕が1番行動するようにしてます。

 

自分の活動をいろんな人に手伝ってもらっている中で、やっぱり自分が一番動いてないと、お願いするにしても説得力がないと思うので。

 

逗子の道迷い防止用トレイルMAP作りしてますけど、もちろん自分で走ってログとって、トイレとコンビニと、あと最寄り駅情報と分岐の番号載せてます。

 

自分が町を理解してないと、今提案していることと実際の齟齬があるじゃないですか。

 

そういう意味で、理屈だけじゃなくて実体験とか、体感に基づいた提案をすることが大事だと思っているので、なるべく町中を歩くようにしてます。

 

今は、町の人と気軽にお話できる感じではないけど。ゆくゆくは日頃から町中を歩いて回って、お話していただけるような人になれればいいなと思って。信頼を勝ち取りたいです。

 

── 地道な活動ですね。

 

ランナーだし、山道の整備とか、ずっとコツコツ地味なことやるの好きなんですよ。

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

 

逗子で見つけた「トレイルランニングがあるライフスタイル」

 

── 宮地さんの想いとしては、「子供の未来をつくっていく」というのと、「トレイルランニングを広げたい」。その部分が大きいですか?

 

そうですね。業界の中にいると盛り上がりを感じるけど、トレイルランニングというスポーツはまだまだニッチ。業界外の人に認めてもらいたいです。

 

別に必ずしもアスリートである必要も、ガチなスポーツである必要もなくて。

 

例えば、夕日綺麗だなって思ったときに、僕は高台に駆け上がって日没を見るんです。

 

長い距離走るんじゃなくって、ちょっと駆け上がったら、こんなに素晴らしい景色を楽しむことができる、ライフスタイルのトレイルランみたいなことを大事にしたいと思っていて。

 

歩いて登って行って、ご近所さんに会ったら、「あー、夕日が綺麗ですね」って言って、また登ったときに、「この間はどうも」とか。そういう意味でのトレイルランなんです。

 

だから僕の言ってるトレイルランって、意味としては多分もうちょっと広くて。

 

── それができるのは、逗子ならではですよね。山があって、登れば海が見えるし。わたしも大崎公園の方まで走って、そこの景色を見て帰ってくるの好きなんです。住宅街を通るので、そこでみなさん挨拶してくださったりとか。犬と一緒に遊ばせてもらったりとか。

 

みんな、あの時間が好きなんですよ。だから、知らないもん同士だけど、なんとなく共有して、「あ、いい1日だったな」って帰るみたいな。

 

その点は逗子に越してきてよかったです。新たなライフスタイルというか、人生の楽しみ方を発見しました。

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

 

逗子を「海と山の」として認知してもらう

 

── そのくらいのゆるさなら、トレイルランニングを日常に取り入れやすいです。宮地さんは、今後も逗子に根付いて活動していきたいと思っていますか?

 

そうですね。まずは逗子を「海と山の」として定着させる。そして、そのマインドを三浦半島、湘南エリアにもっと広げていきたいと思っています。

 

── 広いですね。湘南エリア、、、。

 

場所にもよりますけどね。結局、ルールにするんじゃなくて、カルチャーとかライフスタイルとしての海と山のが定着すれば、いさかいは減ると思うんですよね。

 

僕がやりたいのは社会課題の解決だったり、地域振興だったり、どっちかっていうとそういうことなんです。

 

── それは、例えばどんな?

 

例えば、歩いてる人からするとマウンテンバイク、トレランは危ないとか。マリンスポーツをやっててもジェットスキーが危ないとか、いろいろあると思うんですけども。

 

ビーチの中のコミュニティがしっかりしてくるとか、隣町同士でもビーチのルールを共有したいところを学び合うとか。そういう意味で、三浦半島や湘南エリアを「海と山の」として育てていく。

 

あとは、京急電鉄やJRとも、しっかりタッグを組んで。主要な駅には全部バイクラックがありますとか。

 

シャワーとは言わないけど、足を流せるようにビーサン用の水道蛇口がついてますとか。

 

エリアを挙げて、「アウトドアスポーツウェルカムだよ。ただ電車が砂まみれは困るから、よろしくね」みたいな。

 

エリアとしての魅力発信をしたり育てていければ、成長しながら環境保全ができる。そうすると、子供たちにも良い状態でを残せるかなと思ってます。

 

── いいですね。みんなが協力し合いながら、良い方向に成長していく。自然のことを良く知るっていうのは、本当に自分たちの将来を作っていく上でも大事ですよね。

 

そうですね。そういう意識が広がっていって考えれば、より良い行動にきっと繋がるので。

 

── あとは自然の中にいると、人と協力することの大切さを実感します。1人だと本当に何もできない。

 

そのとおりです。この記事を読んでくださる方がいて、そこに可能性だったり面白そうって思ってくださる方が増えれば増えるほど、僕が言ってる話は実現に近づく。

 

かつ、いろんな人のアイデアがより良いものにブラッシュアップさせていく上では大事なので。それを聞くことで、また新たなヒントを僕はいただくっていう感じです。

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

 

── やることがたくさんですね。すごく楽しそうです。

 

そうですね、やりたいことがたくさんあります。明日も、スズメバチの罠を設置しに行くんです。昨年、大量発生してしまって困ってて。許可を得て作業してます。

 

── 本当に動き回ってますね。宮地さんのお話からエネルギーをいただきました。ぜひ、わたしも活動に参加させていただきたいです。本日はお忙しい中ありがとうございました!

 

 

=宮地さんが日々の暮らしで大切にしていること=

 

「妻をたてる」

 

 

(写真提供:宮地さんご本人)

 

 

「一に妻をたてる、二に妻をたてる、三に妻をたてる」ですかね(笑)

 

家族の平和があってこそですから。

 

この前も妻とケンカした時に、「ママ強いからパパは無理だよー」みたいなことを、3歳の息子に言われました。

 

── 3歳にして、もうヒエラルキーを分かっている(笑)子供ってよく観察してますからね。

 

本当にそうです。

 

── 大事ですよね。ご家族のサポートがあってこその活動ですもんね。素晴らしいです。

 

 

=宮地さんの逗子のおすすめスポット=

 

「神武寺(じんむじ)からの景色」

 

 

(写真撮影:小野口健太さん)

 

 

「神武寺」というお寺があって、すごく趣があります。

 

雰囲気が苔むしたお寺と、昔ながらの参道と、ちょっと行くと入り組んだトレイルがあって。

 

この神武寺ルートには素敵な見晴らしスポットがあるんですよ。僕はここから見る海の眺めが1番好きです。

 


・宮地さんの公式サイト「FUJIO PROJECT」:https://www.fujioproject.jp

 

・宮地さんのinstagram:https://www.instagram.com/fujiomiyachi/

 

・「Jr. TRAIL RUN」:https://www.jr-trail-running.com

 

・「ZUSHI TRAIL WORKS」:https://www.fujioproject.jp/zushi-trail-works/


※応援団募集中!!

宮地さんの活動に共感し、応援団に加わりたい方は以下にご連絡ください!

Facebookグループに招待します。(逗子在住でなくてもOKです)

 

<問い合わせ先>
fujio.miyachi.1130@gmail.com

 

ライター紹介

Kumiko Iijima

高校卒業まで競泳選手として活動。大学では乳酸菌の研究に勤しみ、卒業後は自分の世界を広げるために、海外1人旅をしまくる。ヨガやメディテーションの講師資格も持つ。趣味は読書、写真、映画やアート鑑賞、フリーダイビング(素潜り)。好きな言葉は「無常」。

https://www.instagram.com/iijimak/

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