くらす・はたらく

「このまま死ぬのはイヤだ」。普通の主婦だった私が、世界一過酷なサハラマラソンを目指す理由 田福順さん

2020.10.19(月) 働く人  

 

 

「人生はマラソンのようだ」

 

お話を聞いて、その言葉が頭に浮かびました。さまざまな感覚や感情に出会い、自分と向き合いながらゴールを目指すマラソン。ときに私たちは、その経験を自分の人生に重ね合わせます。

 

今回取材させていただいた田(でん)さんは、モロッコ南部のサハラ砂漠を250km・7日間に渡って走り続ける“サハラマラソン”に向けて、トレーニングに励んでいます。逗子ではSUPやカヤックを教え、通信制大学の福祉課に通い、3人の子を持つ母でもあります。

 

そんな彼女ですが、6年前まで普通の専業主婦でした。

「このまま死ぬのはイヤだ」。その想いが自分を変えるきっかけとなり、行動し、今に至ります。

 

インタビューでは彼女が自分を変えるために大切にしてきたこと、また、大好きな逗子への移住計画など、明るく気さくにお話しいただきました。

 

 

 

ただ「楽しそう」と思った。それがサハラマラソンに出ようと決めた理由

 

── “世界一過酷”と言われている、サハラマラソンに挑戦されるって聞きました。いやー、すごいですね。どんなきっかけで出場しようと決めたのですか?

 

すごいよね、全然出るようなレベルの走力じゃないけど。

ただ「楽しそう」って思ったんです。

 

たまたま友人の結婚式が今年の2月にあって、そこでサハラマラソンに何回も出場している女性に出会いました。

 

その時は全然サハラマラソンの話にならなくて。友達になって、後で彼女のFacebookを見てみたら、サハラ砂漠のことがいっぱい書いてあったんです。「なんなんだこれ?面白そう!」って思って、で、もう出ることにしたんです。

 

※サハラマラソンとは

南モロッコのサハラ砂漠で毎年開催されるウルトラマラソン。衣・食・住に関わる全ての荷物(6〜13kg)をランナー自らが準備し、それを背負って7日間・合計約230~250kmを走る。地球上で最も過酷なレースと言われ、日中は気温が40℃を超えこともある一方、明け方には14℃位まで下がる。どこまでも続く砂丘、ゴツゴツとした岩だらけの丘、時折起こる砂嵐では前が見えなくなるという状況の中を、参加者はロードブック(コースマップ)とコンパスだけを頼りに進む。(SPORTS ENTRYより引用)

 

 

 

(photo by Rena Mutaguchi)

 

 

 

── え、直感?でも、サハラマラソンってどれくらい走るんですか?

 

7日間で250km。1日目は20km、2日目は30km、3日目は50kmみたいな感じでトータルで250km走ります。

 

テントと水は用意してもらえFるけど、あとは全部自分で運ぶんです。

 

だから練習ではお米を8kgくらい担いで走ったり、暑い時間に走ったり。今年の夏はそんなことばっかりやってましたね。

 

 

(写真提供:田さんご本人)

 

 

「このまま死ぬのはイヤだ」。自分を変えるために挑戦したフルマラソン

 

── お米担いで走るって、やばいですね。サハラマラソンを目指す他に、逗子でSUPやカヤックも教えているそうですが、もともと何か競技スポーツをしていたんですか?

 

若い頃は何もやってなかったです。いきなり始めたんですよ、5年前に。

 

わたし、子供が3人いるんですけど、当時は下の子がまだ小さかったんです。でも、人生の半分が終わって、「このまま死ぬのはイヤだ」って思ったんですよね。

 

ちょうどその年に、横浜マラソンでフルマラソンの部ができたんです。それまではなかったんですけど。で、たまたまエントリーしたら当たっちゃって。

 

4ヶ月くらい練習して42.195km走りきりました。

 

そしたら、「なんだ、できるじゃん」って。自信になりました。

 

その出来事でスイッチ入っちゃったみたいで。次の日には自転車屋さんに行って、「トライアスロン用の自転車ください」ってお願いしてましたね。泳げなかったんですけど、2ヶ月後のトライアスロンレースにエントリーしちゃいました。

 

── そのフットワークの軽さ、すごいです。もともとトライアスロンは知ってたんですか?

 

いや、順番とかもわかってなかったです。でも、スイム、バイク、ランの3種目なのは知ってました。横浜の山下公園で大会やってるから。

 

そのイメージがあったのか、次はトライアスロンって勝手に思ってて。そういう感じです。全部ノリで。

 

それでトライアスロンスクールに通いだして、スプリントの部で完走しました。

スイム750m、バイク20km、ラン5kmだったと思います。

 

 

石垣島トライアスロン:元トライアスロンオリンピアン庭田 清美さんと (写真提供:田さんご本人)

 

── 3月にフルマラソン、5月にトライアスロン、、、

 

そう。その次の年には距離をのばして、オリンピックディスタンス(スイム1.5km、バイク40km、ラン10km)でホノルルトライアスロンと石垣島トライアスロンに出場しました。

 

さらに翌年、宮古島(全日本トライアスロン宮古島大会)も当たっちゃって。それはスイム3km、バイク150km、ラ ン42.195km。それも完走しました。

 

 

親子でホノルルトライアスロン完走(写真提供:田さんご本人)

 

 

“神のお導き”じゃないけど、経験も場数も少ないのに、その後にウルトラマラソン出て。で、調子に乗ってサハラマラソンにエントリーしました。

 

すごいよね、何も基礎がないのに、やっちゃってるから。

 

目標を決めて、こなしていくのが好き。それが生き方にもつながっていくような気がする

 

── 決めて、行動に移しているところがすごいです。田さんは、目標を決めたらパッと動くタイプなんですか?

 

そうなんでしょうね。計画を立てることも好きです。

 

例えば、マラソンやトライアスロンの大会で完走するために、じゃあ月に何km走ろうとか。そうやって予定を決めて、こなしていくことが好きです。

 

それが結局、自分の生き方にもつながっていくんじゃないかなって思ってます。

 

だって、日常生活もダラダラ過ごしてたら、ずっとダラダラしちゃうじゃない?

 

わたし、実はいま大学生なんです。福祉課で勉強してます。通信制の大学に編入して2年で卒業です。

 

── えええ、大学生もやってるんですか?

 

そう、多忙でしょ?

 

パラトライアスロンで障害を持つ方と関わったことがあるんです。それがきっかけで、近所の障害者施設でお手伝いをするようになって、そういう仕事をしたくなったんです。

 

大学は通信制なんで、自分で管理する必要があります。

トライアスロンとかと同じで、計画を立ててやってます。何月何日までに何を提出するとか。ダラダラしなくなりましたね。

 

あと、ヨガの指導者養成コースにも通ってます。

逗子での仕事のきっかけも、逗子が好きで移住したくて「ここで仕事できないかな」って探してたら、

ヨガの先生を募集しているのを見つけたんです。自分の学んだことが活かせるかなと思って応募しました。

 

そしたら、わたしのスポーツ経歴を見て、ヨガじゃなくてSUPとカヤックを教えることになって。去年の冬から修行を始めて、今年に入ってからは、単独で生徒さんに教えてます。

 

 

(写真提供:田さんご本人)

 

メディテーションみたいな感覚。長い距離のスポーツが好きなのは、自分との対話ができるから

 

── 大学生、ヨガの講師資格コース、SUPやカヤックの仕事。そのうえ家事もありますよね。そんなに忙しいと疲れませんか?なぜトレーニングを続けられるのでしょうか?

 

疲れる時もたまにあります。そういう時はとにかく寝ますね。

 

わたし、トレーニングも大会も長い距離が好きなんです。なぜかというと、「メディテーション」してるんですよね。自分との対話を楽しんでます。途中で泣いたりもして。多分、それがしたくてやってるんだと思います。

 

だから、タイムや順位はあまり関係ないです。

 

走っている時、自分の身体から意識が離れて離脱してる感じになるんです。

身体はちゃんと走ってるけど、意識がどこかに行ってて、何を考えているかわからない。でもすごく気持ちよくて、リラックスしてる。それを味わいたいんだと思うんです。

 

── その感覚、わかります。身体は動いていてアクティブだけど、気持ちは落ち着いててちゃんと「今」に意識がある。わたしも毎年、湘南の海を10km泳いでます。その時はケータイからのメッセージも来ないし、誰にも邪魔されない、自分との対話をとことん楽しめる大切な時間です。

 

そうそう。それがしたいんだろうね。

あとは、「できなかったことが、できるようになったんだ」っていう自信が欲しいんだと思います。

 

 

南伊豆ウルトラマラソン完走(写真提供:田さんご本人)

 

人の温かさが懐かしい。自然が豊かな逗子に移住したい

 

── 日常生活では、なかなか体験できない感覚ですよね。特にわたしたちのような現代人には。先ほど、「逗子が好きで移住したくて、ここで仕事を探してた」と言っていましたが、逗子のどんなところに魅力を感じたのですか?

 

やっぱり、海があって山もあって、自然が豊かなことですね。

 

あとは、人の温かさ。

 

以前、走る練習で鎌倉から逗子に走ってきたことがあったんです。その時、道がわからなくて何回も道を聞きました。小坪マリーナとか。逗子マリーナとか。

 

そしたら、みんなが15分くらいかけて道探してくれて。おじさんも、おばさんも、お姉さんもみんな。

 

そんなことあります?普通は、「あっちじゃない?」とか、「こっちですよ」で終わりじゃない?

逗子は違うの。「どこからきたの?」とか、みんなが話しかけてきてくれて。なんかこう、“懐かしさ”があるんですよ。

 

わたしが今住んでいるのは横浜の山の上で、話しかければ話すって感じです。だから、逗子の人は温かい人が多いなと思って。

 

で、海練習とか、お友達の家に遊びに来てるうちに、顔なじみの人が出来てきて。

こないだお茶してた時も「あ、〇〇さん」って。

 

そういうのが増えてくるんです。その辺にみんながいるっていうか。それが面白いです。

 

 

(写真提供:田さんご本人)

 

 

── なるほど。わたしは東京ですけど、やっぱり都会だとそこまで繋がりがないです。「温かくて懐かしさがある」っていいですね。なんか、お話を聞いてたら、わたしも頑張ろうって思いました!まだまだいけそうな気がします。

 

うん、そうだよ。自分で限界を作っちゃいけないんだよ。

 

── ですね。また色々お話聞かせてください!本日はお時間いただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

=田さんが日々の暮らしで大切にしていること=

 

「日々、一生懸命生きる」

 

 

(写真提供:田さんご本人)

 

 

昔は「適当に要領よく生きよう」って思ってましたが、子供が出来て変わりました。

今は苦労は買ってでもしろって。そういう姿勢を見せないと子供がダメになっちゃうかなって。

 

子供に思うことをまずは自分がしようって思って、ゴミを拾ってみたり、信号を守ってみたり。だいぶ大人になりましたね。

 

=田さんの逗子のおすすめスポット=

 

「逗子湾を抜けたあたりの海」

 

 

(写真提供:田さんご本人)

 

 

1dayカヤックコースを教える時は、逗子湾を抜けて葉山の方に行きます。その、抜けたあたりが好きなんです。いきなり視界も広くなって、バーっと開けた感じになります。

 

逗子湾も広いですけど。もっとこう、「海」っていうのを感じられるんで、オススメスポットです。

 

カヤックもいいけど、SUPで行くと自然と一体になるというか、自然が迫ってくる感じがします。「自分って、ちっぽけだな」ってことも感じられますね。

 

 

 


 

・田さんがSUPやカヤックを教えている「エバーリゾート」さん https://everresort.jp

 

・サハラマラソン公式サイト(英語/フランス語/スペイン語対応) https://www.marathondessables.com/en

 

・サハラマラソン:レース情報(国境なきランナーズHP) http://runners-wb.org/race/race01.htm

 

ライター紹介

Kumiko Iijima

高校卒業まで競泳選手として活動。大学では乳酸菌の研究に勤しみ、卒業後は自分の世界を広げるために、海外1人旅をしまくる。ヨガやメディテーションの講師資格も持つ。趣味は読書、写真、映画やアート鑑賞、フリーダイビング(素潜り)。好きな言葉は「無常」。

https://www.instagram.com/iijimak/

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