くらす・はたらく

子供と地球を守りたい。怖さを乗り越えた先に体験した、自然の素晴らしさとは 堅田忍さん

2020.10.18(日) 暮らす人  支える人  

 

 

海や湖を泳ぐオープンウォータースイミング、大自然の中を泳いで走るスイムランなど。とてもアクティブに過ごしている堅田さんは、逗子に住みはじめて15年。

 

「毎朝5:30から逗子の海で泳いでるんです。来年こそは丸沼スイムランで泳いでゴールしたくて」

 

と、こんがりと焼けた肌にキラキラした表情で話します。

 

そんな堅田さんですが、以前は泳ぐたびにパニックを起こしていたのだそう。

 

そのような体験をしてもなお、諦めずに続けることができた理由。そして、自然と触れ合う中で生まれた「この美しい地球を子供たちに残したい」という想いについて、ご自身の今までの経験をお話しいただきました。

 

オープンウォータースイミングとの出会い、パニックを経験

 

── オープンウォータースイミング、トレイルランニングなど、とてもアクティブに活動されていますが、こういったアウトドアアクティビティを始めたきっかけは何だったのですか?

 

もともとはスキーと登山をしていて、キリマンジャロに登ったこともあります。あとは大学時代にバイトでスイミングインストラクターをしてました。

 

スイミングのバイトが終わるとプールで自由に泳いでよかったので先輩にアドバイスをもらって練習してたんです。そうしたら、左右呼吸でゆっくり長く泳げるようになりました。

 

その後、娘が生まれるタイミングで逗子に移り住みました。

 

ある時、逗子市民プールで泳いでいると、わたしの泳ぎ方を見た監視員の方が「オープンウォータースイミングをやっている方ですか?」って声をかけてきてたんです。

 

その時は何のことだかわからなくてポカンとしてしまったのですが、プールに“湘南オープンウォータースイミング参加者募集”のポスターが貼ってあったんです。

 

ゆっくり長く泳ぐ泳ぎ方はオープンウォータースイミングに適した泳ぎ方だったようで、オープンウォータースイマーだと思われたみたいです。あの時声をかけられなかったら今の私はなかったかも。

 

★オープンウォータースイミングとは

海や川・湖といった自然の水の中で行われる長距離水泳競技。プールでの競技と異なり自然の中で行われるため、競泳とは異なる技術や知識が必要とされる。

「湘南オープンウォータースイミング」とは、湘南エリアで毎年開催されているオープンウォータースイミングの大会。10kmの部は逗子海岸からスタートして江の島(片瀬東浜海岸)まで泳ぎ、2.5kmの部は逗子湾内で行われる。

 

そのポスターがきっかけで湘南オープンウォータースイミング2.5kmの部に出場しました。練習も適当だったけど、平泳ぎとクロールでなんとか泳ぎきりました。レースはすっごく楽しくて、「私のやりたいことはこれだったんだー!」と発見した感じでした。

 

その後は子育てや、日本を離れたりして、やっていなかったんですけど、日本に帰ってきてから、またやりたくなって。もう一度出場してみたんです。今から3年前くらいかな。

 

その時は、自分ではできると思ったのに、泳いでいる最中にパニックになっちゃって。ゴーグルが合っていなかったので、中に水が入ってきてしまったんです。

 

それで、一気に怖くなってしまい、顔を水につけられなくなってしまいました。

 

平泳ぎでなんとか1kmのところまで行ったけど、関門にひっかかり、回収されてしまいました。すっごく悔しかったです。

 

でも、「今ここでやめたら、もう二度と海で泳げなくなる」と思って。スクールを探して、葉山で練習しているトライアスロンチームを見つけました。コーチと一緒にゆっくり泳いでもらい、毎回パニックには襲われましたが、なんとか泳げるように戻れました。

 

(写真提供:ラプレム・いわさ さん)

 

 

恐いけどやめられない。泳いでいる時の心地よい感覚はまるで麻薬みたい

 

── すごい努力家ですね。パニックになったら怖くてやめてしまう人も多いのに。もともと目標を決めて努力するタイプなんですか?

 

いや、全然。割と逃げるタイプです。

でも、泳ぐのって楽しいし、気持ちいいじゃないですか。その気持ちよさに味をしめて続けています。

 

今でも顔を海につけた瞬間に恐怖心に襲われます。呼吸が止まるような感覚で、その怖さを「大魔王」って呼んでいます。

 

でも、その恐怖心と闘いながら泳いでいるうちに「大魔王」が消える瞬間があって。そうすると、体のまわりに水がピターっとくっついてくるんです。

 

なんて言うか、包まれて安心して、守られている感じ。急に気持ちよくなるんです。母なる海に抱かれている感じで、自分の体と海との境界がなくなるんです。

 

そうなると、鼻歌も出てきて、いくらでも泳げる。あの感覚がたまらない。“スイマーズ・ハイ”って言うのかな、麻薬ですよね。

 

そのことを考えるとニヤニヤしちゃって。逗子の海で偶然知り合った海友達と一緒に、出勤前の30分だけ泳いでます。

 

── 毎日朝5:30から海で泳いでるってすごいですね!それを続けられるモチベーションは何なんですか?

 

スイムランの練習を一緒にしている、速いオープンウォータースイマーについていきたいんです。今は待たせてしまっているけど、練習して同じペースで泳げるようになりたいです。

 

「丸沼スイムラン」は3年連続で出場しているんですけど、もう、本当に本当に楽しくてみんなにぜひやってみてほしいです。来年に向けて今から練習してます。

 

 

(写真提供:丸沼スイムランカメラマン 小野口健太さん)

 

★スイムランとは

トランジション(着替えや装備を交換するエリア)はなく競技中装備は全て携帯し、スイムとランを何度も繰り返すペア競技。スウェーデンが発祥のスポーツで、現在、全世界で500以上のレースが開催され盛り上がりつつある新しいエンデュランススポーツ。(日本スイムラン協会公式HPより引用)

「丸沼スイムラン」は群馬県利根郡 日光国立公園にて毎年行われている、スイムランの日本唯一の大会。2人1組となり、湖でのスイムと山でのトレイルランニングを繰り返し、ゴールを目指す。2020年は奄美大島で「きょら島奄美スイムラン」の開催が予定されていたが、コロナ禍で延期になった。

 

 

お釈迦様の手の上で転がされているみたい。自然に包まれらながらゴールを目指す、丸沼スイムランの魅力とは

 

── 丸沼スイムランはけっこうサバイバルなレースですよね。熊も出るとか。でも、出場した方の話を聞くとみんなすごく楽しそうです。堅田さんにとってこの大会の魅力とはなんですか?

 

自由にやらせてもらえるところかな。

 

このレースでは、地図とコンパスが必携品で、自分たちの力で進んでいくんです。 もちろんコース誘導はあるし、安全管理もきちんとされています。でも、湖が冷たかったり、山が急峻だったり、関門があったり、とても面白いコース設定なんです。

 

そこを自分たちの力を自分たちで判断して、進むのもやめるのも自分たちの判断次第。なんていうか、孫悟空がお釈迦様の手の上で転がされているのと同じような感じがします。

 

あと、トライアスロンは1人でやるけど、スイムランはペアで行います。ペアが10m以上離れてはいけないというルールがあるので、速い人は遅い人を待つんです。

スイムパートでいつものように大魔王が出てきて怖くても「まだいける!大丈夫!」って励まされると、「頑張らなくちゃ!」っていつも以上の力が出ます。

 

得意なトレイルでは相手を引っ張り、苦手なスイムでは必死でペアについていき、助け合ってゴールを目指すというのがこの競技の最大の魅力です。そして、自然に包まれている感じが、本当に最高なんです!

 

補給食や水、レース中に出すゴミも含めて、装備品は最初から最後まで全て自分で持っていかなきゃいけないというルールがあります。

 

トライアスロンやマラソンに比べて補給所も少ないから、この“自分でやっている”っていう感じを味あわせてもらえるのも楽しいですね。

 

 

トライアスロンチーム「ラプレム」の仲間 楢木野さんと念願の完走

 

 

1年目は短い距離の部(スイム2.5km ラン7.5km)に出たのですが、実は、ペアの人に懇願されて、イヤイヤ出場したんです。

だって、ウエットスーツを着て山を走って、靴を履いたまま泳ぐって、あまりにも過酷じゃないですか。

 

やっぱり最初のスイムで「大魔王」が出てきちゃってビリでスタートしたのですが、得意のトレイルランで先行チームをごぼう抜きして3位になり、ハマちゃっいました。

 

ゴール後に、長い距離に出ているペアが補給所で“まんじゅう”を食べる姿を見たのですが、その雄姿がメチャクチャかっこよかったんです。

 

それに憧れて2年目は長い距離(スイム8km ラン22km)に出場しました。目標は“まんじゅうエイド(補給所)”までたどり着くこと。

 

制限時間オーバーでゴールまではたどり着けなかったけど、まんじゅうエイド到達は達成しました。

3年目の今年は、完走を目標にスイムラン仲間と逗子の山で走ったり、冬も海で泳いだり、1年間練習しました。

 

練習の成果が出て、ミックスの部(男女混合)1位でゴールできました。ゴールでは一緒に練習してきた仲間たちが泣きながら迎えてくれて、感動しちゃいました。

 

完走はとても嬉しくて、Facebookのアイコンも「I am a Swimrunner」に変えました。 ただ、最後に雷が鳴ってスイムパートがランパートに変更になってしまったので、泳いでゴールができませんでした。来年はスイムでゴールするのが目標です。

 

逗子葉山はスイムランには最適の場所なので、逗子の子供たちにもスイムランを経験してもらいたいです。実はジュニアのスイムランレース開催もひそかに検討中と聞いています。

 

 

(写真提供:堅田さんご本人)

 

 

子供たちに伝えたい、自然に対するリスペクトの気持ち

 

── コツコツ練習されてて、尊敬です。普段お仕事は学校の先生をされてるそうですが、生徒さんたちにもスイムランやトライアスロンに話はしているのですか?

 

そうですね、高校で家庭科を教えていて、食分野で栄養の話をする時に、スポーツ栄養の話にからめてトライアスロンやスイムランの話をします。

 

運動部の子たちは多少、目を輝かせてくれますが、だいたいは変態扱いです。

 

「昨日は8km泳いで、補給食は~」とか話すと、生徒は「またですかー」って顔しています。

 

── 楽しそうですね。先生が自分の好きなことを話せる授業って素敵です。

 

大体の生徒は引いてますけど、2人海で泳ぎたいって言ってくれて。

その子たちを逗子のオーシャンスイムスクールに連れて行きました。

 

「すごく楽しかった」って、2回参加してくれました。嬉しかったですね。

一人は大学でトライアスロンをしたいと自転車まで買ったそうです。

 

自然に対するリスペクトの気持ちが生まれると思うから、子供たちには海で泳いだり、山で走ったり、自然の中でたくさん遊んでほしいと思います。

 

(写真提供:堅田さんご本人)

 

 

「地球と子供を守りたい」という想い

 

── いいですね。逗子は海も山もあるから、気軽に始められますよね。「特に子供たちには海で泳いだり、山で走ったりしてほしい」とのことでしたが、大人よりも子供にやってほしいという想いの方が強いですか?

 

先生をやっているからかな。特に子供たちに、この地球の素晴らしさを伝えたいと思っています。そして、それを未来につなげていって欲しい。

 

だって、すごいじゃないですか、この地球って。海や山があって、美しい自然に溢れてる。

それがちょっとでも長い間残ればいいなって。

 

最近は気温がどんどん高くなっているけど、この気候変動をちょっとでも遅らせたいんです。

 

葉山で海に潜る時は、魚を見るよりも海中のゴミを拾うし、沖縄に行った時もゴミを拾って「海にありがとう」って感謝してから海に入るようにしてます。

 

生徒や子供にも「私は電気をなるべく使わないようにしている」とか「ゴミを減らそうとしている」という話をしています。

 

そうすると、少し冷房弱めてくれたり、ゴミ拾ってくれたりします。

 

子供が生まれてから特に、この子たちに美しい地球を残したいという気持ちが強くなりました。「地球と子供を守りたいんですよね」。

 

 

(写真提供:堅田さんご本人)

 

 

逗子にはいろんな活動をしている人がいる。それが面白い

 

── 普段から自然に触れているからこそ、気づくことですよね。逗子って環境問題に対して取り組んでいる方が多い気がします。逗子に住んでいて良かったなと思うところはありますか?

 

逗子は人との距離がちょうどいいです。なんていうか、ちょうどいいタイミングで人と会うんですよね。例えばカフェで座ってると、必ず誰かに会います。それがとっても心地よくて。

 

だって、誰にも会わないのはさびしいじゃないですか。会いすぎるのは嫌だけど、離れすぎてるのもさびしい。

 

あとは、街の中を良くしようと活動している若い世代が多い。“夜回りラン”しているグループとか、近所のお年寄りと子どもを集めて「おにぎり会」を開催しているママさんとか近所には子供を叱ってくれるおじさんもいるし、そういうところが逗子のいいところだなって思います。

 

── “夜回りラン”って、ランニングしながら夜回りするってことですよね?みなさんアクティブ。なんだか逗子っぽくていいですね!

 

いろんな活動をしてる人がいて、逗子は本当に面白いです。わたしはまだまだ何もできていないけど、今後も地道に自分にできることを続けていきたいと思います。

 

100人に言って100人全員には伝わらないけど、1人でも届いたら嬉しいです。

 

(写真提供:ハシオカ サチコさん)

 

 

── 素敵です。自分にできることを小さくコツコツやっていく、わたしも真似したいです。あと、今度一緒に海のゴミ拾いもしたいです。本日はお時間いただきありがとうございました!

 

 

 

=堅田さんが日々の暮らしで大切にしていること=

 

「近所の方々とのかかわり」

 

子育てを通じて地域とのつながりの大切さを強く感じました。日ごろの挨拶からちょっとした立ち話し、お互い無理のない助け合いがとても心地よく感じます。

 

先日は近所の子ども10人くらいを逗子プロレスに連れていきました。子どもたちが大人になった時に逗子のつながりの温かさをそれぞれの住む場所に運んで行ってくれたら嬉しいです。

 

 

山の根ボーイズと逗子プロレス (写真提供:堅田さんご本人)

 

 

 

=堅田さんの逗子のおすすめスポット=

 

「逗子海岸や桜山古墳」

 

やっぱり逗子海岸でしょうか?富士山や伊豆半島が見える場所が最高です。朝でも夕焼け時でもいつも美しい。逗子海岸を見渡せる桜山古墳も大好きな場所です。

 

なぎさ橋珈琲逗子店 テラス席から (写真提供:逗子在住・ロホマン真由美さん)

 

 


 

・丸沼スイムランレース2020概要(日本スイムラン協会公式サイト)https://swimrun.jp/event/

 

・湘南オープンウォータースイミング公式サイト http://shonanows.jp

 

 

 

ライター紹介

Kumiko Iijima

高校卒業まで競泳選手として活動。大学では乳酸菌の研究に勤しみ、卒業後は自分の世界を広げるために、海外1人旅をしまくる。ヨガやメディテーションの講師資格も持つ。趣味は読書、写真、映画やアート鑑賞、フリーダイビング(素潜り)。好きな言葉は「無常」。

https://www.instagram.com/iijimak/

このライターの記事

一覧を見る